獣になってしまう私たち

数日間の取材旅を終えて帰宅すると、足の踏み場がないほど、家の中がぐちゃぐちゃになっていた。

泥棒でも入ったかのような荒れようで一瞬ドキッとしたが、それがほとんど息子がほったらかしにしたおもちゃだということがわかり、頭から角が生えてくるのを感じた。
波平ばりに叫びそうになったところで、数日前に聞いた講演会のことを思い出した。

息子が来年入学予定の小学校で就学前検診があったのだが、子供達が検診をしている間、保護者は体育館で子育て講演会を聞いたのだった。「子供と温かい関係をつくるコツ」として、臨床心理士の先生が、絆を深めるために増やしたい関わりと減らしたい関わりを教えてくれるというものだ。

 

まずは、減らしたい関わり方から。

 

その1 直接的、間接的な命令
例:「おもちゃを片づけなさい」「片づけてくれない?」

 

その2 質問形式
例:「おもちゃは遊び終わったらどうするんだっけ?」

 

その3 否定
例:「おもちゃ片づけないなんてダメでしょ」

 

このような関わり方ばかりしていると絆が深まらず、思春期以降に悪い影響が現れてくると、長年のデータからわかっているという。

 

まずい、非常にまずい。命令、質問、否定、わたしはいつもやっている。というか質問形式なんて良かれと思って多用してた。しかもこれに加えて「片づけないならおやつはないよ!」などの脅しまですることもある。思春期に荒れ狂う息子の姿が浮かんで身震いした。

 

ではどうしたら良いのか、藁にもすがる気持ちで、全力で講演の続きに耳を傾ける。

 

増やしたい関わり方は以下の3つだそうだ。

 

その1 子供の発言を繰り返す。理解されていると感じて子供がうれしい
例:「ぼく緑色が好き」「そうか、緑色が好きなんだね」

 

(私の心の声)ほほぅ、積極的に実践しよう。

 

その2 具体的にほめる。お互いに良い気分になり関係がより温かくなる
例:「おもちゃ片づけてえらいね!」」

 

(私の心の声)・・・ん?そりゃ自ら片づけてたら、言われなくてもめちゃくちゃ褒めるよ。

 

その3 子供の行動を言葉にする。注目されていると感じて子供がうれしい
例:「おもちゃを片づけているんだね」

 

(私の心の声)・・・いやだから!おもちゃ片づけないんだって!この例の子は片づけてるんだね?でもうちの子は片づけないんだって!

 

私の心の声をよそに、子供がやってほしくないことをした時や、やってほしいことをしてもらうにはどうしたら良いのかは最後まで教えられることはなく、講演会は終わったのだった。

 

一緒に講演会を聞いていた友達と、顔を見合わせた。友達の言いたいことはわかった。友達もまた、わたしの言いたいことはわかったと思う。

 

取材旅の重い荷物をおろしながら、10秒くらいそんなことを思い出し、結局、「コラァ!おもちゃ片づけなさーーーい!」とドスのきいた声で叫んだのだった。思春期が怖い。


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